訪問看護における、看護職員と理学療法士等との協働について、課題提起されています。記事をピックアップします。
7月17日の中医協総会では、2020年度の次期診療報酬改定に向けた総論(第1ラウンド)の最後として、▼介護・障害福祉サービス等と医療との連携の在り方▼診療報酬に係る事務の効率化・合理化、診療報酬の情報の利活用等を見据えた対応―について議論を行いました。
前者の介護サービス等と医療との連携に関し、厚労省保険局医療課の森光敬子課長は、(1)地域包括ケアシステムの構築に向けた介護サービスとの連携(2)精神疾患に係る施策・サービス等との連携(3)障害児・者に係る施策・サービス等との連携―の3点について検討を求めました。
このうち(1)では、「訪問看護」に注目が集まりました。訪問看護は、医療保険・介護保険の双方から給付が行われるサービスで、地域包括ケアシステムの中で「要」になると期待されています。このため、昨今の診療報酬改定では▼大規模化・機能強化(24時間対応の実現)▼人材の育成▼情報連携の充実―などに向けた対応が行われてきています。例えば、人材育成については、2018年度の診療報酬改定で、地域の医療機関の看護師を一定期間、訪問看護師として受け入れたり、地域の医療機関等を対象とした訪問看護に関する研修を行うなどの取り組みを行う「機能強化型3」の訪問看護ステーションが新設されるなどしています。
こうした取り組みにより、▼訪問看護ステーションの増加(2004年:4806事業所→2018年:9964事業所、14年間で5158事業所・107%増)▼大規模化(5人以上の事業所の割合は、2010年・32.4%から2017年・37.6%となり、5年間で5.2ポイント増)―などといった効果が出ています。
しかし、訪問看護に関しては次のような課題もあることが森光医療課長から報告されました。
▽管理者、スタッフの高齢化(管理者では5割以上、スタッフでは3割以上が50歳代以上)
▽機能強化型(24時間対応)の訪問看護ステーション設置に地域差がある(鳥取県・島根県・香川県では届け出ゼロ)
▽スタッフにおける理学療法士等の割合が多い訪問看護ステーションが増加しており、理学療法士等の割合が多い訪問看護ステーションでは24時間対応体制加算の届出割合が少ない(理学療法士等の割合が80%以上の訪問看護ステーションもわずかにあり、そこでは7割弱が24時間対応を行っていない)
管理者やスタッフの高齢化は訪問看護に限った話ではありませんが、「より働きやすい環境」の構築が重要となります(とりわけ長距離移動が多くなる訪問看護などでは重要)。この点について支払側の吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)は、「ICTやオンライン診療などを組み合わせ、患者ニーズを満たしながら、医療従事者(ここでは訪問看護師)の負担軽減を図るべき」と強調しています。
また、スタッフ数5人以上の大規模訪問看護ステーションが増加してはいるものの、裏から見れば「6割超が5人未満の小規模ステーション」と言えます。この点、吉川久美子専門委員(日本看護協会常任理事)は「大規模化に向けた報酬面での手当を、2020年度改定に向けても検討してほしい」と要望しています。
他方、「理学療法士等の割合が多い訪問看護ステーション」について、中医協委員からはさまざまな角度から「問題がないか、確認する必要がある」との指摘が出されています。理学療法士などリハビリ専門職による訪問看護は、当然、「訪問によるリハビリテーション」が主体となります。この点、理学療法士等の割合が80%以上の訪問看護ステーションは、事実上、設置が認められていない「訪問リハビリステーション」になってしまっているとも考えられます(介護保険の訪問リハビリは医療機関・介護老人保健施設でのみ提供可能)。この点について診療側の猪口雄二委員(全日本病院協会会長)は「リハビリ専門職が、事実上の訪問リハビリステーションに流れ、病院でのリハビリ専門職確保が困難となっている。きちんと実態を調べて、適切な対処をすべき」と強調(関連記事はこちら)。また、同じく診療側の今村聡委員(日本医師会副会長)は「理学療法士等の割合が80%以上という訪問看護ステーションでは、重症度の低い患者を選び、24時間対応をしていない可能性がある。これは健全な姿とは言えないのではないだろうか。経営母体と理学療法士等との割合との関係なども見ていく必要がある」と指摘しています。
この問題は、2018年度の診療報酬改定・介護報酬改定でも焦点が合わせられ、例えば「効果的な訪問看護の提供を推進するために、理学療法士等による訪問看護については、看護職員と理学療法士等が連携して実施することの明確化」などの対応が行われました(関連記事はこちらとこちらとこちら)。2020年度の次期改定に向けて、どういった対応が行われるのか注目する必要があります。仮に、猪口委員や今村委員の指摘するような「24時間対応の必要はない(つまり急変しない)、訪問リハビリだけを希望する患者のための、スタッフのほとんどを理学療法士等とした、事実上の『訪問リハビリステーション』である訪問看護ステーション」の必要性があるのなら、正面からその存立を主張すべきで、制度の穴をつくような手法は好ましいとは言えないように思われます。
中医協 会議資料
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000529038.pdf
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